ADR、OCC、RevPARとは?ホテルのレベニュー指標について解説

2023年、ホテル業界はコロナ禍からの回復期を迎えました。しかし、人手不足や物価上昇という新たな課題に直面しています。このような環境下で、ホテル経営者は「より少ない客室で、より高い収益を上げる」という戦略的転換を迫られています。

その際に重要な指標となるのが「ADR(客室平均単価)」「OCC(稼働率)」「RevPAR」の3つです。これらの指標を正しく理解し活用することで、限られたリソースを最大限に活用し、収益性の高い経営を実現できます。

本記事では、これらの指標の意味や計算方法、活用方法について、実際のデータや事例を交えながら詳しく解説します。また、後半では上場しているホテル運営会社のレベニュー指標についてもご紹介します。

ADR、OCC、RevPARとは?

ADR(客室平均単価)とは?

ADR(Average Daily Rate)は、1日あたりの客室平均単価を示す指標です。近年、特に注目されている指標で、人手不足や物価上昇に対応するため、より高い単価を実現することが求められています。

ADRの計算方法は以下の計算式で求められます:

ADR = 宿泊売上合計 ÷ 販売客室数

例えば、あるホテルで1日あたりの宿泊売上が200万円、販売客室数が50室の場合:

200万円 ÷ 50室 = 4万円

この場合、ADRは4万円となります。

ADRの活用方法は以下のようなものがあります。

活用方法説明
価格設定の適正性確認市場価格との比較による適正価格の検証
競合ホテルとの比較同業他社との収益性の比較分析
収益性の分析客室単価の推移による収益性の評価
マーケティング施策の効果測定プロモーション施策による単価変動の分析

OCC(稼働率)とは?

OCC(Occupancy Rate)は、ホテルの客室稼働率を示す指標です。全客室数に対する実際に販売された客室数の割合を表します。

OCCの計算方法は以下の計算式で求められます:

OCC = 販売客室数 ÷ 全客室数 × 100

例えば、全客室数100室のホテルで、80室が販売された場合:

80室 ÷ 100室 × 100 = 80%

この場合、OCCは80%となります。

OCCの活用方法は以下のようなものがあります。

活用方法説明
需要予測の精度向上過去の稼働率データによる需要予測
価格戦略の策定稼働率に応じた価格設定の最適化
収益最大化の判断材料稼働率と単価のバランス調整
シーズン別の需要分析季節変動による需要パターンの把握

RevPAR(客室稼働率あたりの収益)とは?

RevPAR(Revenue Per Available Room)は、1室あたりの収益性を示す総合的な指標です。ADRとOCCの両方を考慮した、より包括的な収益指標となります。

RevPARの計算方法は以下の2つの方法で計算できます:

方法1:RevPAR = ADR × OCC
方法2:RevPAR = 宿泊売上合計 ÷ 全客室数

例えば、ADRが3万円、OCCが70%の場合:

3万円 × 0.7 = 2.1万円

この場合、RevPARは2.1万円となります。

RevPARの活用方法は以下のようなものがあります。

活用方法説明
収益性の総合評価客室1室あたりの収益性の評価
経営戦略の策定収益最大化に向けた戦略立案
投資判断の材料投資収益率の評価指標

ADR、OCC、RevPARを向上させる方法

これらの指標を実際に向上させるための具体的な施策についてご紹介します。

ターゲット層に応じたADR戦略

市場の需要動向を分析し、ターゲット層に応じた価格設定を行うことで、収益性を最大化することができます。ビジネスホテルでは、平日のビジネス客向けに朝食付きプランを設定し、週末は観光客向けに夕食付きプランを提供することで、それぞれのターゲット層に最適な価格設定を実現できます。

また、季節性を考慮した価格設定も重要です。観光地のホテルでは、繁忙期(例:紅葉シーズン、桜の季節)は通常の1.5~2倍の価格を設定し、閑散期(例:梅雨時期、冬期)は通常の7~8割程度の価格で販売することで、年間を通じて安定した収益を確保できます。

予約状況に応じたOCC管理

早期予約者に対して10~20%の割引を提供することで、安定した予約の確保と稼働率の向上を図ることができます。特に閑散期の予約確保に効果的です。例えば、沖縄のリゾートホテルでは、3ヶ月前の予約に対して20%の割引を提供し、特に閑散期の予約確保に効果を上げています。

また、直前の空室に対して20~30%の割引を設定することで、稼働率の向上を図ることができます。ただし、過度な値下げは収益性を損なう可能性があるため、予約状況や市場動向を考慮した慎重な判断が必要です。例えば、都市部のシティホテルでは、当日の空室に対して30%程度の割引を設定し、特に平日の稼働率向上に貢献しています。

客室タイプと付加価値によるRevPAR最大化

客室タイプの多様化と付加価値の提供は、収益最大化の重要な戦略です。ビジネス客向けの高級客室と観光客向けのスタンダード客室を分け、それぞれのターゲット層に最適な価格設定を行うことで、高いADRと高いOCCの両立を実現できます。

また、付加サービスや特別な体験を組み込んだ高付加価値プランの開発も効果的です。地元の有名レストランとのコラボレーションや、地域の伝統文化体験を組み込んだプランを提供することで、通常の1.5~2倍程度の価格で販売し、収益性の向上を図ることができます。例えば、福岡のホテルでは、地元の有名シェフによる特別ディナーや、地元の伝統工芸体験を組み込んだプランを提供し、通常の2倍程度の価格で販売することで、収益性の向上を図っています。

その他のホテル経営指標

ADR、OCC、RevPARは基本的なレベニュー指標ですが、ここではホテル経営においてより包括的な指標についても解説します。

売上構成比(宿泊・料飲・その他)

宿泊部門、料飲部門、その他サービスなど、部門ごとの売上構成比を分析することで、各部門の収益性を把握することができます。

部門内容収益性向上のポイント
宿泊客室販売ADR、OCC、RevPARなどの指標を活用した客室販売戦略の最適化
料飲レストラン、バー、カフェなど食材原価の管理、メニュー構成の最適化、客単価向上
その他売店、駐車場、貸切風呂など付帯施設の稼働率向上、サービス内容の充実、追加収益の創出

GOP(Gross Operating Profit)

GOP(粗利益)は、ホテルの営業収入から直接費用を差し引いた利益を表す指標です。
GOP計算式は以下の通りです: GOP = 総売上高 – 直接費用(人件費、食材費、水道光熱費、清掃費など)

例えば、以下のような場合のGOPを計算してみましょう。

  • 総売上高: 1億円
  • 直接費用:
    • 人件費: 3,000万円
    • 食材費: 1,500万円
    • 水道光熱費: 800万円
    • その他経費: 1,700万円

GOP = 1億円 – (3,000万円 + 1,500万円 + 800万円 + 1,700万円)
= 1億円 – 7,000万円
= 3,000万円

GOPの費用部分における、項目の分析ポイントをご紹介します。

項目分析ポイント
人件費システムによる省人化、スタッフのマルチタスク化
食材費原価率の管理、仕入れ先の見直し
水道光熱費省エネ設備の導入、使用量の管理
その他経費経費削減の余地、アウトソーシングの検討

ホテルのレベニュー指標の確認方法

レベニュー指標を効率的にモニタリングするには、適切なツールの活用が欠かせません。ここでは代表的な2つの方法についてご紹介します。

PMS(ホテル管理システム)の活用

PMSの集計機能やダッシュボード機能を活用することで、リアルタイムでの指標確認が可能となります。PMSには、ネットの予約データだけでなく、滞在中の追加売上(レストランやスパなどの館内消費)、直接予約のデータなども含まれているため、ホテル全体の収益分析を行う上で欠かせないデータソースとなります。

そのため、詳細の売上データを出力できることもPMSを選定する上で大事なポイントになります。

PMSについてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

独自BIの活用

カスタマイズされた分析ツールを活用することで、より詳細なデータ分析がや施設独自の切り口での分析が可能となります。例えば、TableauやAmazon QuickSight、Power BIなどのBIツールがあります。これらのBIツールを効果的に活用することで、データに基づいた戦略的な意思決定が可能となり、収益の最大化につなげることができます。

上場企業の事例

ここでは、実際に上場企業のADRやOCC、RevPARなどのレベニュー指標を開示しているか見ていきましょう。ビジネスホテル、リゾートホテル、シティホテルなど、業態別の各指標の目安にもなります。

共立メンテナンス

ドーミーイン事業は、FY3/25の年間平均で稼働率87.4%、ADR15.6千円、RevPAR13.6千円と、安定した高稼働・高収益を維持しています。一方、リゾート事業は季節性の影響が大きく、稼働率78.9%、ADR48.7千円、RevPAR38.4千円と単価は高いものの変動が大きい傾向です。業態ごとの特性が、KPIに明確に表れています。

出典:株式会社共立メンテナンス「2025年3月期 第3四半期決算説明資料」(2025年2月18日発表)

運営費用が上昇している状況ですが、人件費、食材費、リネン費や清掃費などを抑制しながら、ADRの適正価格の徹底を用いて吸収していく方針とのことです。

帝国ホテル

帝国ホテル東京は2023年度、ADRが63,058円、OCCが64.8%と前年からいずれも上昇し、RevPARは約40,880円と推定されます。大阪もADRが28,442円、OCCが49.5%とともに回復傾向にあり、RevPARは約14,070円。両施設ともにコロナ禍からの着実な需要回復がうかがえます。

出典:株式会社帝国ホテル「2024年3月期決算説明資料」(2024年5月10日発表)

今後は京都・祇園甲部歌舞練場敷地内に新ホテル(約60室)を2026年春に開業予定です。また、帝国ホテル東京では建て替えに伴い、街区内中地区へ営業エリアを拡張し、宴会事業と新たなホテル事業を展開する計画です。新規開業や大規模な改修により、ADRを向上させていく戦略のようです。

グリーンズ

グリーンズの2025年6月中間期は、全社平均でADR(客室単価)10,026円、OCC(稼働率)80.4%と過去最高水準を記録し、RevPARは約8,060円と推定されます。チョイスブランドはADR 10,510円・OCC 81.3%、RevPARは約8,550円、オリジナルブランド(宿泊特化型ホテルをはじめとして集宴会・レストランを兼ね備えたシティホテルなどを、三重県を中心として東海・北陸地方で展開)も着実に単価・稼働ともに上昇しています。

出典:株式会社グリーンズ「2025年6月期中間決算説明資料」(2025年2月発表)

グリーンズでは既存施設に対して20億円規模の積極的な投資を行う方針を打ち出しています。この投資により、ラウンジスペースの利便性向上や客室内の美観・機能面の改善を実施し、顧客満足度の向上を目指しています。

まとめ

ホテル経営において、ADR、OCC、RevPARなどのレベニュー指標は経営判断の重要な材料となります。PMSや独自BIを活用したデータ分析により、市場動向や顧客ニーズを把握し、それに基づいた戦略的な価格設定や稼働率管理が必要です。

上場企業の事例から、共立メンテナンスは業態別の特性を活かしたKPI管理、帝国ホテルは新規開業や大規模改修による収益性向上、グリーンズは投資による顧客満足度向上など、それぞれ特徴ある戦略を展開しています。

また、コロナ後は、人手不足や物価上昇に伴い、OCCよりもADRを向上させて収益性を高めるトレンドが顕著です。このような環境では、ターゲット層に応じた価格設定や付加価値の提供など、戦略的なアプローチがより重要になっています。

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