ホテルの無人フロントとは?旅館業法のフロント無人化要件と導入システムを解説

近年、ホテル・旅館業界では、テクノロジーを活用した業務効率化の取り組みが加速しています。特に注目を集めているのが、フロントの無人化です。従来は対面で行われていたチェックインやチェックアウトなどの手続きを、セルフチェックインシステムで代替することで、人件費の削減や業務効率の向上を図る施設が増えています。

無人フロントシステムは、タブレット端末や自動精算機などのICT機器を活用し、ゲストが自身でスムーズに手続きを完了できる仕組みを実現します。これにより、24時間体制での人員配置が不要となり、人手不足に悩む宿泊施設の運営負担を大きく軽減することができます。

一方で、無人フロントの導入には、セキュリティ対策や緊急時の対応体制の整備、さらには顧客満足度の維持など、慎重に検討すべき課題も存在します。本記事では、無人フロントの基本的な仕組みから、導入に必要な法的要件、具体的なメリット・デメリットまで、詳しく解説していきます。ホテル経営の効率化を目指す方々の参考になれば幸いです。

ホテルの無人フロントとは

ホテルの無人フロントとは、フロントに常駐するスタッフがいない体制を指します。通常のフロント業務をセルフチェックイン・チェックアウト機やタブレット端末などで代替することで、ゲストはスタッフを介さずに手続きが可能です。ただし、完全な無人化というわけではなく、少数のスタッフが別の控室で待機し、緊急時やトラブル発生時に対応できる体制を整えている場合もあります。

フロントを無人化するためには、以下の要件を満たす必要があります。

緊急時対応の体制

宿泊者の緊急要請に対して、通常10分程度でスタッフが駆けつけられる体制を整える必要があります。具体的には、近隣に事務所を設置するか、セキュリティ会社との連携が必要です。徒歩10分圏内に事務所を設置することが推奨されています。

本人管理の仕組み

宿泊者名簿の正確な記載、ビデオカメラ等による常時鮮明な画像での本人確認、宿泊者以外の出入り状況の確認が求められます。

鍵の受け渡し体制

スマートロックやキーボックスなど、適切な鍵の受け渡しが必要です。ICT機器による本人と連携した鍵の受け渡しも可能で、セキュリティ面での安全性が確保されていることが重要です。

旅館業法におけるフロント設置の条件

旅館業法では、ホテルや旅館の運営において、玄関帳場(フロント)の設置が原則として義務付けられています。しかし、2018年6月15日の法改正により、一定の基準を満たすICT設備を導入することで、物理的なフロントを設置せずに運営することが可能になりました。

旅館・ホテル営業の場合

旅館業法施行令第1条第1項第2号において、旅館・ホテル営業の施設の構造設備の基準として、以下のいずれかを備えていることが求められています。

  1. 宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場
  2. 玄関帳場そのものでなくとも、玄関帳場に代替する、厚生労働省令で定める基準に適合する設備

つまり、原則として玄関帳場の設置が求められますが、一定の基準を満たすICT(情報通信技術)を活用した代替設備を備えることで、物理的な玄関帳場を設置しないことが可能となりました。

簡易宿所営業の場合

一方、「簡易宿所」営業については、旅館業法施行令に玄関帳場等に関する構造設備基準の規定がありません。したがって、法律上は玄関帳場を設置する義務はありません。

かつての「旅館業における衛生等管理要領」には、簡易宿所営業の施設設備の基準として「適当な規模の玄関、玄関帳場又はフロント及びこれに類する設備を設けること。」と規定されていましたが、平成28年3月30日の通知により、「適当な規模の玄関、玄関帳場又はフロント及びこれに類する設備を設けることが望ましいこと。」と改正されました。

ただし、地方公共団体の条例(上乗せ条例)によっては、簡易宿所営業についても玄関帳場等の設置について規定しているケースがあります。

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000824218.pdf

無人フロントのメリット

人手不足の対策

ホテル業界では慢性的な人手不足が続いており、無人フロントの導入は効果的な対策となります。株式会社帝国データバンクの調査(2024年10月)によると、非正社員における人手不足割合は全業種平均で29.5%であるのに対し、「旅館・ホテル」では60.9%と高い水準となっています。

出展 : 帝国データバンク 人手不足に対する企業の動向調査(2024年10月)

2022年12月には、正社員と非正社員ともに8割を超える人手不足割合を記録するなど、コロナ禍以前を上回る状況でした。2024年に入ってからは、業種別に見ると依然として上位にあるものの、緩やかな改善傾向が見られます。この背景には、インバウンド需要の高まりがある一方で、業務効率化に向けたツールやスポットワークなど多様な働き方の普及が、人手不足の解消に寄与している可能性が考えられます。

無人フロントの導入により、限られた人員でも効率的な運営が可能になり、スタッフの負担軽減にもつながります。特に夜間帯の人員配置を効率化できる点は大きなメリットです。

人件費の削減

24時間体制のフロント業務を自動化することで、人件費を大幅に削減できます。特に夜間帯の人員配置を効率化できる点は大きなメリットです。

一般的なホテルでは、夜間帯のフロントスタッフの人件費が月額20-30万円程度かかります。無人フロントの導入により、このコストを大幅に削減することが可能です。

ゲストのチェックイン時間の柔軟性

無人フロントでは、ゲストが自分の都合の良い時間にチェックイン・チェックアウトが可能です。事前チェックインシステムを導入することで、到着前に手続きを完了することもできます。

非対面、非接触

コロナ禍以降、非接触需要が高まっています。無人フロントは、スタッフとゲストの直接的な接触を避けることができ、感染症対策としても効果的です。

無人フロントのデメリット

遠隔での顧客サポートの必要性

ゲストがお困りの際やトラブル発生時の対応などについて、遠隔でサポートできる体制が必要となります。これらに対応するため、滞在中のチャットやコールセンターなどの体制を整える必要があります。また、多言語対応も求められるため、翻訳システムやマニュアルの整備も重要です。

初期費用

セルフチェックイン機やセキュリティシステムの導入には、相応の初期投資が必要です。具体的には、セルフチェックインと周辺機器(決済端末やプリンター)、スマートロック、防犯カメラどの設備投資が必要となり、小規模ホテルにとっては大きな負担となる場合があります。また、これらのシステムの月額費用が発生します。

ゲスト体験への影響

従来型のホテルでは、フロントスタッフとの対面でのコミュニケーションを通じて、温かみのあるサービスや地域の観光情報の提供などが行われてきました。無人フロントでは、このような人的な触れ合いが減少することで、一部のゲストにとってはサービスの質が低下したと感じる可能性があります。

この課題に対しては、以下のような工夫で補完することが重要です。

  • 客室内への手書きのウェルカムメッセージの設置
  • チェックアウト時に清掃スタッフからの挨拶やお礼
  • 宿泊ゲスト専用アプリによる詳細な観光情報の提供

一方で、特に若い世代のゲストからは、スタッフとの必要以上のコミュニケーションを避けられる点や、チェックインやチェックアウトの時間に縛られない自由さから、むしろ無人フロントを積極的に評価する声も増えています。深夜のチェックインや早朝の出発時も、気兼ねなく行動できる点は大きなメリットとして捉えられています。

フロントの無人化に必要なもの

セルフチェックインシステム

セルフチェックイン機、宿泊管理システムとの連携、多言語対応機能を備えたシステムが必要です。これにより、ゲストはスムーズにチェックイン・チェックアウトが可能になります。現地での決済が発生する場合は、セルフチェックイン機が決済端末やプリンターと連携している必要があります。

鍵の受け渡しシステム

スマートロック、キーボックス、モバイルキーなどの適切なシステムを導入する必要があります。特に、スマートロックは鍵の受け渡しを自動化し、セキュリティも確保できるため、無人フロントに最適です。

セキュリティ対策

防犯カメラ、エレベーター制御システム、24時間モニタリングなどの設備を整えることが重要です。これにより、ゲストの安全を確保しつつ、施設のセキュリティを維持できます。

緊急時対応体制

近隣事務所の設置、セキュリティ会社との連携、緊急連絡システムを整備する必要があります。緊急時には迅速に対応できる体制を整えることが不可欠です。

ホテルの無人フロントの事例

「アパートメントホテル ecott」の事例

セルフチェックインとセルフ決済をスマートロックと組み合わせることで、20時以降のフロントの無人化に成功しています。

最初は無人では難しいのではないかという不安な面もあったんですが、実際にやってみたら無人の時間帯も問題なくセルフチェックインしていただけました。特に都心からいらっしゃるお客様や外国の方はスムーズに利用していただいています。20時以降到着のプランも販売しているため、予約時にセルフチェックインであることを知っていただいている方も多いです。また、20時以降に到着するお客様にはaipassでのクレジットカード決済をお願いしています。

「モビリタコート岩手」の事例

事前チェックイン率は「9割」を実現。団体や海外の方でもスムーズにセルフチェックインを実現しています。

LINE連携を利用することで、施設に到着する前にチェックインされる方は9割にも上ります。予約情報からメールアドレスを取得できないOTAもありますが、LINEを利用して電話番号での送信も行うことで、全てのお客様に事前チェックインのご案内をすることができます。
また、団体のチェックインでは代表者が一括でチェックインできたり、外国籍のお客様も一度に全員分のパスポートを撮影できるため、お待たせする時間を大幅に短縮できました。細かな点ですが、ゲストの利便性に配慮されていると感心しています。

まとめ

ホテルの無人フロント導入は、運営効率化や人件費削減に大きな効果をもたらしますが、導入にあたっては管轄の保健所に事前相談を行い、要件を満たせるか確認することが重要です。また、地域によって上乗せ条例が存在する可能性があるため、地域の条例も確認する必要があります。

導入の検討段階では、セルフチェックインシステムやスマートロックなどの設備投資に関する初期費用と、システムの月額費用などのランニングコストを試算し、人件費と比較することが重要です。また、緊急時の対応体制を整備し、チャットでのサポート体制や近隣事務所との連携をしておく必要があります。

無人フロントの導入は、ホテルの運営効率化に大きく貢献します。施設の状況に合わせて、段階的な導入を検討してみてはいかがでしょうか。

aipassでは、無人フロントの導入をサポートする各種システムを提供しています。具体的な導入支援やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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